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【感想】砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない|残酷な世界を生き抜こうとあらがう子どもたちに涙

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

桜庭一樹著「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」は、2006年度に「このライトノベルがすごい!」で3位になったことからもわかるとおり、もとはライトノベルでした。可愛らしい挿絵も付いていたそうです。

あえて「もとは」と言ったのは、現在は一般文庫本として発売されているため。

こうしてライトノベルから一般文庫化するのは珍しいのですが、読んでみるとわかる、というかむしろどうしてライトノベルだったんだろう?って思ってしまいます。

最初の刊行は2004年と作品自体は新しくはないものの、陳腐化されているどころか、今の時代に読んでおきたい内容でした。

今回再読でしたが、はじめて読んだ時よりも思うところも多く、胸にずしりときました

以下、ネタバレを含みます。

目次

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない|あらすじ

おもな登場人物

  • 山田なぎさ:母と兄とともに暮らす少女。リアリストで、早く卒業して社会に出ることを望んでいる。
  • 海野藻屑:山田なぎさのクラスに転校してきた少女。自分のことを人魚だと言い張っている。奇妙な言動が目立ち、校内では浮いた存在。

海野藻屑(うみのもくず)のバラバラ死体が見つかった――とてもショッキングなところから物語は始まります。

海野藻屑はなぎさのクラスに転校してきた少女でした。

転校初日、藻屑はクラスメートの前に立つと大量の水を飲み始め、あげく「ぼくはですね、人魚なんです」と自己紹介します。クラスのみんなが身を乗り出す中、なぎさだけは無関心を決め込みます。なぎさはなぎさで、生きることに必死で、わけのわからない転校生に構っているヒマなんてなかったから。

けれど、藻屑が関心を寄せたのは、なぎさでした。藻屑はなぎさの関心を引こうと、色々とけしかけます。

やがてふたりは心を通わせていくのですが・・・。

藻屑はただの変な子かと思ったけど、彼女のふるまいには切ない理由が隠されていました

無条件に守ってもらえない子どもたちのあがき

13歳ともなると、だいぶ背丈も伸びて、下手すれば152センチの私なんて追い抜かれてしまいます。

それでも、彼らは「子ども」で、社会的には「非力」です。何の見返りもなく、無条件で守ってもらえる存在のはず。

しかし、この作品に登場するなぎさと藻屑は、自分の手であがかなければなりませんでした。

父親を事故で亡くしたなぎさは、引きこもりの兄の世話と家事をこなしながら、早く働きに出てお金を得たいと考えています。なぎさは兄を「貴族」と呼び、生涯自分が面倒を見ると心に決めているのです。

藻屑はといえば、父親のゴールドカードを自由に使える裕福な少女。かと思いきや、父親から虐待されていることを隠すため、嘘で身を固めています。なぜなら、絶望的に父親が大好きだから。

本来であれば、芸能人や恋にうつつを抜かしていい年頃です。生き抜くことなど考えず、勉強したり遊んだり、友達と喧嘩したり・・・何気ない毎日を過ごしていいのです。

そんな彼女たちが、何の手札も持たないまま、それぞれに抱えた事情の中であがかなければならない。現実と戦わなければならない。

ものすごく、やるせないです。

唯一の救いは、彼女たちが出会い、肩を寄せ合うことができたこと。

特に藻屑にとってなぎさは初めて友達と呼べる存在だったのではないでしょうか。

「生き残った子だけが、大人になる」の重さ

「あぁ、海野、生き抜けば大人になれたのに………」

終盤で担任の教師がもらしたことばです。

とても重いことば。

戦乱の世でもなく、医療が発達した今の世の中ではなかなか意識することはありません。なんとなく気づいたら大人になっていたという人も多いのではないでしょうか。

だけど、過酷な暴力に見舞われている子どもたちは、現実の世界にもたくさんいて、中には命を落とすケースもあります。

生き抜けば大人になれるのかもしれないけれど、非力な子どもたちは生き抜くための実弾、つまり不遇な環境にあらがうための手段を持ち合わせてはいません。

藻屑もです。

藻屑は、どうすれば生き抜くことができたのか?

正直わかりません。父親を告発すればよかった、とかそんな単純な話ではないと思うのです。

おわりに

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」は、ミステリー要素はあるものの、ミステリーではありません。

はじめに藻屑の遺体が見つかりますが、犯人探しがメインではないのです。

この作品は、あくまでなぎさと藻屑の心の交流がテーマだと思います。

それから、なぎさの心の成長。なぎさは大切な藻屑を失い、深く絶望します。それでも強く生きようとしています。彼女は、生き抜いた子どもとして、傷を抱えたまま大人になるでしょう。

終盤、残酷な世界を生き抜こうとあらがう子どもたちのはかなさが胸に迫ってきました。涙が止まりませんでした。

最後に、本作はテーマは重いのですが、元ライトノベルであることや、なぎさの一人称で書かれていることもありサクサクと読み進められます。活字がちょっと苦手~という人も安心して手に取ってみてくださいね。

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